自主管理の大家に多いトラブルと、連絡の受け方|契約書の条で確かめる
賃貸の部屋を自主管理していると、入居者からいろいろな連絡が届きます。設備の調子が悪い、上の階の音が気になる、犬を飼いたい、しばらく家を空ける。最初の受け方しだいで、話が早く片づくことも、長引くこともあります。
連絡を6つの種類に分け、最初の返事、残すもの、大家さんがやる範囲、その根拠を同じ形で並べます。根拠は民法と、国土交通省の「賃貸住宅標準契約書」(平成30年3月版)の条です。標準契約書はひな形なので、お手元の契約書の条や特約が違うときは、そちらに従います。例の物件は架空の「デモハイツ」です。
火や煙、ガスのにおいのように、すぐ動く連絡の受け方は、「兼業大家の夜間・勤務中の入居者対応」にあります。
自主管理の大家に多いトラブルを、6つの種類に分ける
都の住宅政策本部に電話や窓口で寄せられた賃貸借契約についての相談は、令和2年度で17,200件でした。そのうち15%が、管理(修繕を含む)の相談です(東京都「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」第4版)。全国では、国民生活センターのデータで、平成23〜令和2年度の賃貸住宅の相談が年に3〜4万件ほどでした(国土交通省「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集」令和4年3月)。
下の6つは、件数の多い順ではなく、契約書の条で分けたものです。入居中に大家さんへ届く連絡は、この6つに分けると、受け方をそろえられます。
| 連絡の種類 | 最初の返事 | 残すもの | 大家さんがやる範囲 | 根拠 |
|---|---|---|---|---|
| 部屋の設備の不具合 | 「様子の分かる写真を送ってください。○日までに、次のご連絡をします。」 | いつからか、写真、伺った日 | 必要な修繕をする | 民法606条1項・615条、標準契約書9条 |
| ほかの入居者の音やゴミ | 「いつごろ、どんな様子か教えてください。分かる範囲で構いません。」 | 聞いた日時と、言われたままの様子 | 事実と契約を確かめ、要るときは全員に知らせる | 民法601条、相談対応事例集 |
| ペット、共用部の私物や掲示 | 「契約書では、前もって大家の書面の承諾が要ることになっています。ご事情を聞かせてください。」 | 承諾したかどうかと条件(書面) | 承諾するかを決めて、書面で返す | 標準契約書8条4項・別表第2 |
| 同居する人が増える、長く留守にする | 「ご連絡を受けました。留守の間の連絡先も教えてください。」 | 知らせの日付と中身、留守の間の連絡先 | 知らせを受けて記録する | 標準契約書8条5項・別表第3 |
| 契約していない人が住んでいるようだ | 「お知らせを受けました。こちらで確かめます。」 | 聞いた日と中身(知らせた方の名前は外に出さない) | 入居者に事情を聞き、要るときは専門家に相談する | 民法612条1項、標準契約書8条1項・別表第3 |
| 部屋に入る必要があるとき | 「○日の○時ごろ、お部屋に伺ってもよろしいでしょうか。合わないときは、ご都合を教えてください。」 | 承諾をもらった日時、入った日時、あとで知らせたこと(急いで入ったとき) | 前もって承諾を得て入る | 標準契約書16条 |
返す前に、手元の契約書のどの条に当たるかを見ておくと、返事の中で条の番号を示せます。
連絡の種類ごとの受け方
部屋の設備の不具合の連絡
修繕が要るようになった原因が入居者に無ければ、直すのは大家さんです(民法606条1項)。入居者の側も、直す必要に気づいたら、すぐ大家さんに伝えることになっています(615条)。知らせを受けても大家さんが相当の期間内に修繕しないと、入居者が自分で修繕できるようになります(607条の2)。最初の返事に次の連絡の日を入れるのは、そのためです。
電球やパッキンのような小さな修繕の扱いは、別の記事(細かい連絡への最初の返事の例文)にあります。
ほかの入居者の音やゴミについてのご相談
国土交通省の事例集は、部屋を使わせる約束(民法601条)から、大家さんには住むのに適した状態を保つ務めがあるとしています。そのうえで、入居者どうしの迷惑の相談を受けたら、事実と契約の中身をよく確かめ、迷惑な行いだと言えるときは注意などをする必要がある、としています。事例集は、法的な見解を示すものではないと断っています。
最初の返事では、いつ、どんな様子だったかを聞きます。一人の話だけで、音の出どころの部屋を決めつけません。標準契約書は、テレビやステレオ、ピアノなどを大きな音で鳴らすことを、してはいけないことに挙げています(8条3項・別表第1第4号)。全員あての文は、音なら「アパートの騒音注意文の例文」、ゴミなら「入居者へのお知らせ文例」にあります。
ペットや、共用部への私物・掲示についてのご相談
標準契約書では、犬や猫を飼うこと、廊下や階段に物を置くこと、看板やポスターを貼ることは、大家さんの書面の承諾があればしてよいことです(8条4項・別表第2)。してはいけないこと(別表第1)とは分けて扱います。
別表第2の項目は、契約のときに話し合って入れ替えられます(標準契約書の解説コメント)。ペットを飼えない物件なら、特約に書いてあるかを確かめます。
入居者から「飼いたい」と相談されたら、まず種類や数などの事情を聞きます。承諾するなら、条件を書いた紙を渡します。標準契約書には、承諾書の例も付いています。ほかの入居者から「廊下に物が置かれている」と聞いたときは、見に行って事実を確かめ、契約書の条を添えて片づけをお願いします。誰の物か分からないときは、全員あてのお知らせから始めます。駐輪場の自転車なら、「放置自転車の張り紙の例文」の手順が使えます。
同居する人が増える、長く留守にするという知らせ
同居する人を増やすとき(生まれた子どもは除く)と、1か月以上続けて留守にするときは、大家さんに知らせることになっています(標準契約書8条5項・別表第3)。標準契約書のままなら、承諾は要らず、知らせれば足ります。
この決まりは契約書の後ろの表にあり、入居者が知らないままのこともあります。入居のときに口でも伝え、しおりにも書いておきます(「入居のしおりのテンプレート」)。長い留守の知らせには、留守の間の連絡先を聞いておきます。設備に何かあったとき、つながる先が分かります。
契約していない人が住んでいるようだ、という連絡
入居者は、大家さんの承諾なしに、部屋をほかの人に又貸しできません(民法612条1項、標準契約書8条1項)。ただ、家族が泊まりに来ているだけのこともあります。同居する人が増えた知らせが来ていないかを見たうえで、入居者に事情を聞きます。
知らせてくれた方の名前は、入居者に伝えません。又貸しの疑いが強いときは、動く前に弁護士などの専門家に相談します。
部屋に入る必要があるとき、入居者と連絡が取れないとき
標準契約書の解説コメントでは、大家さんは原則として部屋に入れないとされています。防火や建物の構造を守るためなど、管理のうえで特に必要なときに、前もって入居者の承諾を得て入れます(16条1項)。入居者は、正当な理由が無ければ断れません(16条2項)。火事が燃え広がるのを防ぐときのように、急いで入る必要があるときは、承諾なしで入れます。留守の間に入ったら、あとでそのことを入居者に知らせます(16条4項)。
入居者と連絡が取れないときは、契約書の最初のページ(頭書)の「緊急時の連絡先」に連絡します。東京都のガイドラインは、入居者が急に行方不明になっても、契約をすぐに終わらせることはできず、法的な手続が要るとしています。
単身の高齢の入居者が亡くなったときに備える方法もあります。部屋の契約と残った物の扱いを、入居者が前もって受任者に任せておく契約の例を、国土交通省と法務省が出しています(「残置物の処理等に関するモデル契約条項」)。
賃貸の自主管理では、連絡先を入居のときに渡しておく
管理会社に任せている物件なら、契約前の重要事項説明で、修繕の連絡先として管理会社が伝えられます。大家さんが自分で管理する物件には、その説明の義務がありません。東京都では、賃貸住宅紛争防止条例(平成16年10月施行)で、設備ごとの修繕などの連絡先を契約の前に示して説明するよう、都内の物件を仲介する宅地建物取引業者に求めています(東京都のガイドライン)。
自主管理なら、何の連絡を、いつ、誰に送るかを、入居の日に手渡す紙に書いておきます。たとえば次の3行です。
- 部屋の設備や共用部の不具合、ほかの部屋の音やゴミのご相談は、相手の部屋へ直接行かずに、大家へ
- ペットを飼う、共用部に物を置くときは、前もって大家へ相談(書面の承諾が要ります)
- 同居する人が増える、1か月以上留守にするときは、大家へ知らせる
しおりに入れて渡せます(「入居のしおりのテンプレート」)。急ぐ連絡の順番の決め方は、兼業大家の入居者対応の記事にあります。
受けた連絡は、種類を添えて残す
連絡を残すときは、表の6つのどれに当たるかを1語添えます。同じ種類の連絡が続いたとき、前に何を返し、どこまで動いたかをすぐ見返せます。残す項目そのものは、記録の項目を並べた記事の「記録を残す」にあります。
大家と入居者で話し合っても収まらないとき
話し合いで決まらないときは、裁判所の民事調停があります。部屋の貸し借りをめぐる争いも扱い、おおむね3か月以内に、調停が成り立つなどして終わることが多い、と裁判所は説明しています。全国36の弁護士会(2024年10月現在)が、話し合いで解決を目指す紛争解決センターを開いています。どこに相談すればよいか分からないときは、法テラスが相談先を案内しています。東京都の物件なら、都の「賃貸ホットライン」も賃貸住宅の相談を受けています。
消費生活センターは、消費者からの相談を受ける窓口です。大家さんからの相談は受けていないことがあります。
入居者ごとに、受けた連絡を見返す(住まい番の例)
書き手が運営している住まい番では、入居者がLINEで送った連絡のうち案件になったものが、管理画面の入居者のページの「案件」に並びます。「#3 騒音の相談」「#5 設備の不具合」のように、番号と種類の名前、日付がつきます。同じページの「最近のやり取り」を開くと、直近のやり取りが入居者、AI、大家の吹き出しで見られます。

参考にした資料
リンク先は2026年10月30日に確かめました。
- e-Gov 法令検索「民法」601条、606条、607条の2、612条、615条
- 国土交通省「賃貸住宅標準契約書」平成30年3月版・連帯保証人型 8条、9条、16条、別表第1〜第3、頭書(5)、解説コメント(8条・16条関係)
- 国土交通省「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(再改訂版)」令和4年3月
- 東京都「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」第4版(令和4年12月)
- 東京都住宅政策本部「相談窓口」
- 国土交通省「残置物の処理等に関するモデル契約条項」
- 裁判所「民事調停」
- 日本弁護士連合会「紛争解決センター」
- 日本司法支援センター「法テラス」
書き手
住まい番 運営者
入居者のLINEの連絡にAIが一次対応するサービス「住まい番」を、個人で運営しています。自主管理の大家さんが、夜中や仕事中の連絡に一人で追われずに済むように作りました。